活字地金彫刻

先月、活字地金彫刻の実演見学会に参加した。



詳細は↓(長いです)。

写真追加しました。(7/17)


活字地金彫刻は合金の軸に直に文字を彫り込んで種字を作る技術のこと。
活字の元となる型が母型で、その母型の元となるのが種字。まさしく活字の元の元。


母型。


実演をして下さったのは清水金之助さん。
清水さんは修行後、自ら設立された地金彫刻工房で1960年代初め頃まで
活字地金彫刻を行っていた。


種字の軸は活字とは金属の配合率が異なる。
後の行程のために、表面は光沢のある滑面であることが何よりも重要。
そのため字面には手を触れてもならない。息を呑むような美しさ。






清水さんは水平垂直の中心線を引いただけで、あとは迷いもなく
左右逆の字を彫刻刀で彫り込んでいく。下書きも要らない。




粗彫りが終わったところ。この後荒く削った所を深く彫り込んでいく。


右上の部分を彫り込んだところ。余白を掘り下げる作業は弟子の仕事だった。





漢字よりはひらがなの方が難しく、小さい活字よりも大きいものの方が難しい。
しかし(難易度や掛かる時間に差はあれ)手と頭に刻みつけられた記憶だけで、
日本語であればどのサイズのどの文字も彫ることができる。
(上の「木」は他の見学者の方のリクエストで彫られたもの。
ちなみに印字見本さえあればどんな言語でも左右逆に彫れるそう。)
失敗は千本に一本もない。


集中を要する作業だが、清水さんは「どんどん質問して下さい」と言いながら
(そして答えながら!)朗らかに彫刻を進めていく。
必要があれば作業を中断して実際の見本や身振りを交えて答えて下さった。
そのうえ、清水さんが載った本をまだ見ていないというと
「じゃあ、今から家に行って取ってきます。近いから。自転車で」と立ち上がり、
「ええーっ、いやそんな」と驚く人々を残して颯爽と出て行かれ、
数分後本を手に颯爽と戻ってこられたりした。
(ちなみにその本とは「人間会議」2006年冬号。とてもいい記事です。)



彫刻刀を含め、道具はほとんど手製。作業台は手を支える部分とルーペが一体になっている。


砥石。彫刻刀は頻繁に研ぐ。



清水さんの手。大学時代、アラビア書道家の先生が「手が器用な人は親指の爪
(白く伸びた部分のことではなく、付け根から先端までの長さ)が短い」
と言うのを聞いて以来、手の器用な人を見ると親指が気になるようになっているのだが…。
清水さんの爪は(やはり)短かった。親指だけでなく他の指の爪も短い。

(ちなみにそのアラビア書道の先生の爪は短かった。私はというと不器用さを正確に反映した長さ…)



地金彫りをやめられてから45年近く彫刻刀を手にしていなかったため
2004年に実演を請われた時も「絶対無理だと思った」という。
しかし試しに自宅で練習してみると、またたく間にかつての腕が戻ったというから、
一度刻みつけられた「手の記憶」というのは凄まじい精度と強度だ。

この日感じたことはなんとも上手く言い表しがたい。活字の源流を目の当たりにしたということ。
清水さんの技術。人柄。種字の美しさ。人間の手の可能性。
あるいは「活字」というと(「活字になる」という表現があるように)
「手書き」の対極の響きがあるが、その活字もまたかつては源から
人間の手仕事により生み出されていたということ。その重み。

うまくまとまった文章にすることはとてもできないが…。
「人間の手の仕事」ということについて、それからも日々の折々に考えている。


最後に、素晴らしい実演を見せて下さった清水金之助さん、見学会を主催された
活字研究会の皆様、参加させてくださった活版工房の方々に深く感謝申し上げます。
また、記事はできる限り記憶に忠実に書き表したつもりですが、不勉強ゆえ
何か間違いがありましたらご指摘頂けますと幸いです。

                                       橋目侑季


(写真は清水さんの許可を得て掲載させて頂きました。転載はご遠慮下さい)



補記
見学会のお土産になんと種字を頂いた。


ゴシックのカタカナ、ヱ・パ・オ・カ…。ルビに使われるサイズ。
大きさは…4.5ポ!
左にあるのは比較のために並べたマッチ棒の軸…。



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